おはん/宇野千代 著

 週末は本を読もう。風邪気味だし……。

 内容ですが、二人の女性と関係を持ったある男が、子供をダシに以前別れた女性とよりを戻そうとする話。ポイントはこの男、まるで何もしていないという……。
 内容そのものは短いです。青空文庫などでひと昔前の小説を読む方には想像付くかと思いますが、長い人生のうち一部分を切り取ったような、唐突に始まり淡々と終わるような曖昧な物語。
 よくある勧善懲悪モノとか、冒険活劇みたいなハッキリした始まりと終わりではない、と言えば良いのかしらん。創られた空気に自ら入って読む小説と申しますか。筆者はこういうの大好きです。

 さて、まず全体的な感想を正直に述べますと。語り部の男、物凄くうざったい。何だこの性根の腐った野郎は。そんな感じ。
 彼の行動について、全く以て同意できません。いや、筆者の心中で同意したくないんだなと思うのです。だのに二人の女性から惚れられてるとか、理不尽を越えて鼻で嗤いたくなります。こんな男は最低だと。

 何て悪口のように書きましたが、あくまでそれは主役たる男に対する感情論。裏を返せば、そう思わせる人物像で、そう思わせる物語構成で、そう思わせる描写ということです。
 つまりこの作品、巧い。魅せられました。頽廃的な男女の恋愛劇を、この短い(文庫本にして一〇八頁)物語でこれでもかとばかりに読ませてきます。理不尽なのに、納得できないのに、くそう面白い……!

 後は場面の描写も面白いです。各章の頭と、場面切替毎に少しだけ描写がありますが、短くて理解し易い書き方されています。更に二人称形式で、あたかも読者が主役と同郷の人物であるように読ませて、読者側は「ああ知ってる知ってる」と思わず納得してしまう感じ。
 この書き方は実に巧いなと思います。もしかするとよくある手法なのかも知れませんが、筆者は元々あまり本を読まない質だったので素直に感心しました。二人称形式自体が難しそうですが、勉強になります。

 某氏のお勧めの作家さんで、Amazonで適当に選んで読みましたが、イヤハヤ実に興味深い小説でした。機会があれば他の作品も読んでみたいものです。

 そんな感じで。