琴のそら音/夏目漱石 著

 わりと短めで読み易かった三作品、第一段はこちら。
 こちらは私小説、のような創作。一言で表すと、迷信に惑わされる男のお話。

 お手伝いの婆さんの言は確かに迷信なわけですが、そこはそこ。小説半ばに展開される風景描写は、主人公の心情と相俟って実におどろおどろしく、成程これはどんなに迷信を信じない質でも惑わされるに違いないと思わされます。

 冴えてます。先生の描写が実に冴えていて、情景が目前に浮かぶようです。以前紹介させて頂きました「坑夫」よりは必要最小限に短く、話の内にどんどん引き込まれて、けれど読み疲れませんでした。
 「吾輩は猫である」掲載開始年に発表された短編で、だからなのか話も重々しいものではありません。全体としても比較的会話が多めで読み易く、小説としてとても面白いです。
 さくっと読める先生の作品として、こちらは中々のお勧めです。

 そんな感じで。