長い事読んでいましたが、ようやく読み終えたので今日も感想かきかき。
通勤中の読書は時間を活用できて良いですが、片道十分だと物足りない……。
で、話の内容ですが。登場人物が中々に複雑なので、簡単に紹介を。
- 甲野
哲学の人。名は欽吾。実父は洋行先で亡くなり、家と財産を相続している。 - 宗近
甲野の友人で、父方の縁続き。外交官を目指す。甲野の父の形見の金時計を貰う約束がある。 - 藤尾
甲野の義妹。甲野の父の形見の金時計を実質的に所有している。自尊心が高い。 - 小野
文学士。藤尾の家庭教師的な立場。優柔不断。 - 小夜子
孤堂先生の娘。孤堂先生と共に上京(東京には小野が居る)。 - 謎の女
甲野の義母、藤尾の実母。 - 糸
宗近の実妹。 - 孤堂先生
小野の恩師、小夜子の実父。小夜子と共に上京。体を患っている。 - 宗近の父
宗近の実父。甲野の実父と交友関係がある。 - 浅井
小野の同期。
「謎の女」から上がキーパーソン。「謎の女」もキーパーソンには違いないのですが、まあこんな感じでしょう。紹介も簡潔では御座いますが、これ以上書くと読む楽しみが無くなりますので控えておきます。
で、肝心の内容はと申しますと、一番判り易いのは小野を主役と捉えた場合ですかね。小野は藤尾に未練あり。けれど宗近が藤尾に抱く心も知っており、また孤堂先生への恩と小夜子の恋心もあり、はてさて……という話。
ただ、話はこれだけではありません。群像形式のため一言ではなかなか表せそうにないです。しかも主軸が複数あるような。主軸/副軸と分けられるのではなく、本当に主軸が複数ある感じです。
それを巧みに書き分けて、かつ緻密な縄のごとく話を絡ませ合う所などは、物語の構成レヴェルが非常に高いと筆者は思います。その分、この作品を読み解くには相当の苦労も必要そうですけれど。
また、物語は非常にドラマチックです。最終三つ分くらいの章で、全ての物語を一気に繋ぎ合わせ、衝撃的な展開を以て物語を完結させます。
構成は多分にミステリチック。けれど内容は、当代の男女間の愛憎劇……ううん。人間間の愛憎劇、と言った方がしっくりくるかしらん。それとも人生観……難しいところです。
ねたばれ怖くないよ、でもこれ全部読む時間は無さそう……って方は、最終三つ分くらいの章だけでも読んでみて頂きたく。物語のほぼ全ては、そこに収斂されています。勿論、全部読んだ方が物語を楽しめますけれどもね。
それにしても、これまで読んできた先生の作品にはあまり見られない程、複雑な人間関係が土台にありました。
ここまで全てに気合の入った作品、何となく不思議に思って調べてみたら、成程先生が職業作家として執筆した第一作なのですね。余程気合が入っていたのでしょう……文豪と称される所以を垣間見た気がします。
余談ですが、虞美人草について調べたら面白い説があったのでご紹介。
夏目漱石は、静寂を意味する「森閑」を「しん」と略して使用し、のちに手塚治虫が「しーん」という擬態語として使用したという説がある。
虞美人草 - Wikipediaより
そんな感じで。