お伽草子/太宰治 著

 ノロウイルスが猛威を振るう今日此頃、筆者は単なる風邪でぶっ倒れました。吃驚する程ただの風邪。ノロりたい訳ではないですが、流行というものにはとんと疎い筆者です。
 今回はさる親友に教えて貰った小説から。皆様もご存知の御伽草子「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」の、太宰治先生的二次創作小説です……って言い方で良いのかしらん。
 当初は「桃太郎」も考えていらっしゃったようですが、先生は日本一の快男子を安易に書く事は罷りならんと、大事にすべきこの貴い国で第一を冠する彼の物語を描写する事は避けるべきと、潔く放棄せられたそうです。そちらは「舌切雀」冒頭に、実に確りとした考えで記されております。ナカナカ好きな考え方です。
 ところで「桃太郎」については本作より前に芥川龍之介先生が二次創作? しています。こちらもこちらで解釈が面白かったと記憶しています。更にところで、太宰先生は芥川先生に傾倒していたそうですね。

 さておき。それぞれのお話は大体こんな感じです。

  • 瘤取り
    別に誰も悪くなかった。瘤だって、爺さんにとっては孫みたく愛おしかったのに。
  • 浦島さん
    世に言う風流なんてケチくさい猿真似だ。真の上品とは無限に許されて、ただ微笑みがあるだけだ。
  • カチカチ山
    とかく女性は無慈悲で、男性は溺れかかって足掻くのだ。惚れたが悪いか。
  • 舌切雀
    おれの真価の発揮できる時期が来たら大いに働く。その時までは沈黙して読書だ。

 まあいつもの事です、読んでみてください(笑
 まず、文章構成は実に読み易いです。筆者など近代小説を読む時によく感じる「描写が冗長かな?」といったところが殆ど無く、最初から最後まですっきりと読み進められるので、読書慣れしない方にも良い文章のように思います。あ、「桃太郎」に関する講釈の部分は別。
 各章の最初には本来の御伽草子に関する簡潔な情報がまとめられており、そこに先生流の解釈が加えられ、それから短編小説風の御伽草子が始まって、最後にその物語の真意が添えられます。あくまで二次創作のためか、本文はそれぞれの御伽草子の流れには沿わず、最低限の構成にまで省略されています。そのなかで所謂「太宰的御伽草子」が展開されており、ある部分に関して深く書き込まれた二次創作、といった感じになっています。無駄が少なく、かつ主張を受け取り易く、適度に短いため読み手の負担が少ない模範的な小説だと筆者は感じました。これは意外と執筆の参考になるかも。
 しかし、アレですね。すっごい毒舌というか。先生の作品は他に「女生徒」「人間失格」しか読めておりませんが、これら作品はどれも性質というか雰囲気が異なるものの、それらの所々にある毒が根底の部分で同種のもので、底知れぬ暗さを秘めているように感じます。そこがまあ魅力と言えばそうなんですが……陰鬱な気分の時に読むのは辛かろうな、と思います(笑
 しかし本作の皮肉はなかなか痛快で素敵です。先生の作品が苦手な方も、一度読んでみて損は無いんじゃないかなと思います。
 そんな感じで。