平日に休みが取れると何となく無駄に過ごそうと思ってしまいます。朝寝とか。読書はまあ、どうなんでしょうね。
今回の主要人物はこんな感じ。
来生 律子
主人公その一。前回の事件に巻き込まれ、最後に行動を共にした少女。バイクに興味を持ち、祖父から譲り受けたものをレストアしている。関西弁モドキ? な口調が特徴的。作倉 雛子
お葬式娘。神秘主義に詳しい。占いとかする。祖父の遺品である毒の入った小壜を肌身離さず持っていた。都築 美緒
情報や機械などの工学系に強い天才少女。プラズマ応用工学の世界的権威でもある。但し文章は幼児並み。エンタプログラム、今で言う特撮モノ? がブーム。牧野 葉月
やはりそれ程印象的な処の無い少女。歩未の事を好ましく思っている。今回割と脇役。小山田
ヒゲオヤジ。統合警察所属の警部。名前は偽名。来生達を護ろうと、割と必死。橡 兜次
主人公その二。不惑も半ばの元巡査部長。前回の事件の後に警察を辞職、端末も持ち歩かず殆ど未登録住民。過去に友人が起こしたとされる殺人事件について調べている。神埜 歩未
違法建築のハト小屋に住む少女。今回も冷静で、達観した思考と行動原理。兜次の親友を殺害し、その獲物であるアームブレイドを所持している。麗猫
猫。拳法を使う中国系の少女。未登録住民同士の絆を大切にし、掟を何よりも重んじる。不破 静枝
児童カンセラー休職中。前回の事件以降、特に兜次に対して随分丸くなったような……。今回割と脇役。秀朧
禿頭の老人。クスリ屋で、未登録住民の掛かり付けの医者。麗猫からも信頼されている。霧島 タクヤ
兜次の友人で、かつて女児ひとりと自身の家族全員を殺害した犯人と認定された。行動障碍の影響もあり山中で歩未を襲ったが、その時に殺害された。作倉 遼
雛子の兄で科学者。神崎ケミカルコーポレーション主任研究員で研究開発部チーフ、ラボラトリーセンターの責任者。
前回の主人公格が軒並脇役扱いでした。まあ本当はそれなりのポジションなんでしょうけれど、何というかこういうスタイルの小説ではよくある現象ですかね。本編主人公の律子は前回で超脇役でしたし。兜次はかなり優遇されてますが。オヤジ好きなのな。さておき。
前回の事件から三ヶ月、巷では未登録住民の謎の失踪が連続していました。ある夜のこと、律子は家の前で雛子と出会い、何故か去り際に毒の入った小壜を渡され、その意図を汲み切れず律子は毒の分析を美緒に相談しようと考えます。一方兜次は失職の身からか、過去に友人が起こしたとされる殺人事件に自分なりのけじめを着けようと奔走し、情報収集の為に美緒に話を持ち掛けようと考えます。そんななか美緒の住居で起きた突然の爆発事故、呼応するかのように起きた未登録住民の暴動、その背後で暗躍する謎のエリア警備部隊。律子達は否応なく事件に巻き込まれ、そのうちに過去の殺人事件が次々と繋がっていき、やがて……というお話。
やっぱり妖怪談義はありません。タイトルにもなっているのにインクブス、スクブスの話すら殆どありません。強いて挙げるなら、やっぱり雛子の語る星回りについての考証とか。あとほんの少しですが奇門遁甲が話の筋に出て来たのも。ほんの少し過ぎて物足りないなんてレヴェルじゃないですが。まあ、やはりこちらの作品も近未来SF的なミステリ小説として楽しむのが良いかと思います。
ただ、前回もそうでしたが、美緒の語るエンタプログラムに関する私見が面白いかも知れません。今で言う特撮モノで、ガメラとか仮面ライダーとか。しかも微妙にノスタルジックな頃の。仮面ライダーの話は間違い無く昭和ライダー。一号二号とか、V3とか書かれていましたし。筆者は残念乍ら詳しくありませんが、しかし成程、ああいう超能力的なモノというのは無駄だから幻想的で楽しいのでしょうね。
余談ですが筆者は平成ライダーの仮面ライダー響が好きでした。あれ、初期のノリでずっと続けて欲しかったなぁ。番組的には大赤字だったそうですが。まあ若干子供向けではなかったですからね。大人向けというわけでもありませんでしたが。あれ何処にターゲット向いてたんだろう。随分明後日な方向だった気がするなぁ……まさに妖怪。
話は戻りまして、物語の筋としては、起承転結で言えば「承」の部分が長い小説ではないかと思います。当人達さえ知らぬ間に起きていた事件に巻き込まれ、そのなかで徐々に過去の事件の真相や現在進行している事件の様相が見えてくるという構造上、仕方無いと言えばそうなのですが。
ただその為か、少々中弛みのきらいがあるように筆者は感じました。面白いんですが長い。って、先生の作品に関して言えば長いのはいつもの事かも知れませんが……。こう、何と申しますか。本編における一つの軸となる事件があり、それがタイトルにもある「インクブス×スクブス」に繋がるのではないかと思うわけです。ですが「承」の部分ではそれが殆ど見えてこず、過去の事件や現在進行している事件についての考証のみに終始していて、いまいち物語全体としての進展が見られないように感じられて、それが「長い」ように感じさせたのかな、と筆者は考えます。
あと今回は扱われた「毒」についても、かなりご都合主義的な感が否めない事も災いしているかと思われます。先生の過去作『邪魅の雫』でもネット上でそうした批評を見かけましたが、やはりこうしたキーアイテムは、現実的なものでもない限りは使い勝手が難しいようですね。まあそう言うと、近未来世界を描いたこの物語では、決して現実的でないとも言い切れない、とも主張出来るわけですが……。筆者の頭が固いだけかも知れません。
で、結末なのですが、これはちょっと途中で予想出来ちゃったなぁ、というのが正直な見解でした。といっても先生の作品の王道的展開なわけで、一般的かと問われるとどうなのか判じ兼ねますけれど。もう一つ二つのどんでん返しがあったら嬉しいんだけれど、と思うのは筆者の我侭ですかね。
まあしかし、いつも通りのドロッドロな結末は先生の作品の醍醐味! 陰鬱で倒錯した物語、今回も楽しませて頂きました。あ、割と本気で誉め言葉です。
そんな感じで。