風に舞いあがるビニールシート/森絵都 著

 今週末は良い感じに積ん読本を消化できました。残る積ん読本は……歴史専門書……。

 こちらも某氏お勧めの小説。六編のばらばらな物語。

 簡単に内容紹介を。

  • 器を探して
    有名パティシエの秘書の女性が、クリスマス・イヴに撮影用の器探しを命じられて困る話。
  • 犬の散歩
    犬の里親探しのボランティアをしている女性の、ボランティアの大変さを綴った話。
  • 守護神
    社会人学生のフリーター男性が、レポート代筆の達人と噂の高い女性に代筆を依頼する話。
  • 鐘の音
    仏師の道を諦めて仏像の修復師になった男性が、さる寺での仕事で仏像に惚れ込んじゃう話。
  • ジェネレーションX
    二人の営業マンが青春の頃に思いを馳せたりなんかする話。
  • 風に舞いあがるビニールシート
    難民救助のフィールドワークをする男性と事務の女性との恋愛事情の話。

 核心に迫らない内容紹介って、どうしても序盤の要約みたくなっちゃいますね。

 まず全体として、いずれの小説の題材も、しっかり調べてあるなあと感心します。当たり前か。「守護神」などは、それに加えて先生の考察も入っているのかしらん?「鐘の音」は更にミステリチックに出来ていて、実に興味深い。
 何でしょうね、演劇なんかに例えれば、小道具の作りが良くて場面がハッキリしていると申しますか。これ本当に同じ人が書いたの? と吃驚する程、六編の物語それぞれがそれぞれきっちり組まれていると感じました。
 あるいは各場面の描写にブレが無い。風景描写も必要十分で、想像を働かせる際に安心感というか、ありありと思い描くことができる感じです。
 ちょっと思ったのは、情景描写という点では若干首を傾げてしまう箇所があるかなと。風景描写と情景描写と心理描写の境界が曖昧に混ざり合っているような。必要十分な書き方だからでしょうか? ですが、これはこれでアリかも。

 心理描写は実に解り易くて上手いと思います。(その気持ちは同意し兼ねる、というのは有れ)突拍子も無い心変わりも見られず、登場人物に感情移入し易いです。現代小説として、登場人物全て現代的な考えの人物ばかりだからかも。
 逆に言えば、各登場人物の心情には非常に生臭いものがあります。良くも悪くも現代小説、なんでしょうね……あまり現代小説に親しみの無い筆者が言うのは良くないかも知れませんが。

 また、そのためかどうかは解りませんが、性的描写も各所にあります。単語レヴェルなので色濃くはありませんが、そうした表記を好まない方にもお勧めは出来ないかも。
 筆者は個人的に、小説上のそうした表記を好まないため、作品に対する評価が少々下がりました。
 TPOとかそういう話ではなく、ジョーカーというか。もっとデリケートな言葉ではないかと思うのですよね……表記するにしても、もっと「ここぞ」の場面にのみ表記するとか、効果的な使い方はあるのではないかと。

 各話についてですが……人によって好みは分かれるでしょう。「六編のうち好きな話を楽しんでね」な作りなんだと思います。因みに筆者は「ジェネレーションX」にグッと来ました。もうオッサンだって事かな(笑
 背表紙や解説にある通り、各話「大切な何かのために」現代を生きる物語。それぞれ立場や主張も異なり、「大切な何か」も必然的に異なります。
 それは読者によっても当然異なるわけで、ですから六編のうちどれか一編にでも心動かされたならば、それがその読者にとって自身の内にある「大切な何か」に近いものなんでしょう、何て。
 ええとつまり、六編全てを評価する必要は無く、また難しいのじゃないかしらん、と筆者は結論付けました。一編なり複数編なり、読者が感動し楽しめれば、そこにこの小説の価値があるんじゃないかしらん、と思います。

 ああでも一点。「犬の散歩」に出てくる義父。あんたのその可愛さは何だ(笑

 そんな感じで。