数えずの井戸/京極夏彦 著

 読了した本の紹介などをば。

 筆者は基本的に感想の書けない質だと思っております。何事においても、どうしても二択になりがちです。「面白い」「詰まらない」であったり、「興味深い」「どうでも良い」であったり、「巧妙」「適当」であったり。
 零か一か、何となく断じてしまう悪癖があるのですよね。ですから感想文というのは書けません。点数を付けるなど出来よう筈も御座いません。考えが、無いのです。心の機微としては零から一、といった連続的なものは有るのでしょうけれど、うまく表面に出せません。
 ともあれ読了は読了、持ち得た感想は感想。言行不一致な紹介になるかも知れませんが、取り敢えず置いといて読了本の紹介など書いてみたくなりました。

 番町青山家屋敷跡、通称「皿屋敷」の怪事を元にした怪談小説。尤も筆者個人としましては、先生の作品は怪談小説と思わないのですけれど。伝奇小説、事件小説でしょうかね。ただ下敷が怪異奇談なので、筆者個人は大好きです。
 「嗤う伊右衛門」「覘き小平次」に続く江戸怪談シリーズの第三段。又市も出て来るので巷説シリーズ好きの方には、こちらもお勧めです。ただ本作、又市は最初と最後しか絡んでおらず、ゲスト出演程度。「覘き小平次」もそれくらいだったかな。「嗤う伊右衛門」は結構出演していたような気が。また読み直そうかしらん。又市かっこいい。

 物語の内容は「番町皿屋敷お菊の幽霊」というやつです。下敷のある作品はこれだけで大概伝わるので便利ですね(笑
 ただ、何故お菊は皿を数えるのか。何故青山家に仇為すごとく、怪異井戸に寄付くのか。何故皿は九枚しか無いのか。何故それは、巷説に流布されたのか。それを事件の関係者の独白で解体していくというもの。
 取り敢えず筆者は件の怪談、事件としての詳細は存じませんので、ただへえと感心するばかり。先生の知識まじ常識外れ。さておき。

 うん、面白かった。興味深かった。巧妙。充実した数日間でした。
 ……という感想だけでは、あまりと言えばあまりでしょうか(汗 だって……ねえ。好きな人が楽しむべき小説だと思います、先生の作品は。
 も少し書くのであれば、「数え」「井戸」がキーワードですね。本の題名ですね。だって……ねえ(略
 人の心に巣喰う闇というのは、深いものです。ただただ深い。けれどそれは、何か大きな衝撃があるからではなく。人にはただ心があり、心は往々にして深い闇を持つ。それは、そういうコトとして捉えるより無い。そうして読むと、共感出来ずとも納得はいくのかな、等と思ったり。

 ハードカバーで七七一頁ありますけど、二二章に分かれているので少しずつ読むのも大丈夫な安心設計。筆者は遅読なので安心です。といっても初日は丸一日潰して読んでましたが。だって好きなんですもの。腱鞘炎になるので寝ながら読みましょう(笑
 視点も章毎に変わるので、区切りながら読むのがむしろ違和感無くて良いと思います。
 ただ何か、既刊と比べて最近の先生の小説って改行が多くて一行の文字数が少ないんですよね。読み易くはあるのですが、ガッツリしてないと申しますか。これについては物語の性質上、蘊蓄を含めるものでも無いですし仕方無いかな。京極堂シリーズの蘊蓄具合はまじ常識外れ。

 あと凄いなと思うのが、章毎に視点が変わるのにも関わらず、話はひたすら終息に向かっている事。それは物語ですから、最終的に完結されないと「ええー……」ってなりますけれど。実際書くと大抵、時間軸が前後したり停止したりしますからねえ。
 キャラクタがある程度定まった二次創作物なら人物紹介要らないのでそれでも何とか形になりますが、下敷があれどオリジナルみたいなもので、こう書けるのはとても凄い事だと思います。少しずつ人物像を構築していく手法もありますが、この小説では各人の初登場時に大体の人となりが読み取れ、それが殆ど振れません。そのうえでくどくどした説明も皆無。あやかりたい、あやかりたい。

 少々惜しく感じるのは、これ何で江戸怪談シリーズにしちゃったのかなー……という点。最後の最後に総論みたいな事を又市一味がやるんですが、そこだけわざとらしくて浮いた感じが否めません。途中に出てくる又市一味も、別に又市一味でなくたって、名無しだって良いくらい。
 勘ぐるのは良く無い事ですが、無理矢理感が否めないのです。先生どうかして江戸怪談シリーズにしたかったのか、版元とのむにゃむにゃ……とか、良からぬ事ばかり頭にちらつきました。拘る事は大切ですが、拘る必要の無い事もあるんじゃないかなあ、などと感じたり。
 最近の新刊は追っていなかったので手に取るのが遅くなりましたが、別に江戸怪談シリーズでなくとも好きだから読むのになあ、なんて自分本位な考えでしょうかね。

 次は「西巷説百物語」読もう。わくわく。京極夏彦先生の作品、また一から読み直そうかな。

 そんな感じで。