夜が漸く涼しくなってきまして。暫く熱帯夜にやられて、投げ遣りな生活をしておりました。もう色々と駄目かと思った……。
自叙伝、というのでしょうかね。先生の思い出話……と言うと何だか軽過ぎる気がしますけれど。
「修善寺の大患」と呼ばれる、胃疾で生死の境に至った前後の頃のお話。グロテスクな表現が結構あります。お読みになる方はご注意下さい。
自叙ということもあり、物語性というものはあまり無いのだと思います。ただ、それでも。これは一箇の小説と見て差し支え無いのではないかな、という読後感を得ました。言うなれば病床を題材とした小説でしょうか。狙っての事かは存じませんが、小説していました。凄い。
先生の小説を幾らか読了された方であれば想像付くのではないかと思うのですが、まさにその雰囲気が、この自叙にあるのです。決して面白い物語が書かれているわけではありません。ただ、ドラマがある、と申しましょうか。
けれど実際これを自分の事として叙述するには、大きな抵抗があるものではないかなあ、などと筆者は思います。他日の参考にと書き留めたとの事ですが、これが以降の先生の作品に影響を与えるものとなった事は、確かなようでした。
以前にも取り上げさせて頂きましたが、後期三部作「彼岸過迄」「行人」「こゝろ」にある死生観は、本当に何も言えなくなるようなものでした。それが、この自叙を読むことで理解出来た、ような気がします。
あとこの自叙には、章毎くらいの頻度で先生作の短歌?や漢詩?が出て来ます。すみません、短歌とか漢詩とか呼ぶものなのかちょっと自信ありません。五・七・五とか、五言や七言の漢字のみのアレです。
# 国語の授業は苦手だったのです筆者は……。
詩の美醜は筆者には何とも判じ兼ねますけれど、その折々で先生の胸の内にある情景は、実に良く表されているように感じました。そうした意味では、本当に先生は文才に秀でた方だったのだなあ、と深く感心してしまいます。
読み物としてのお勧めは、あまり出来ないかも知れません。ただ、文豪と呼ばれる先生の、先生自身に起きた大事件。事実は小説より奇なりとは申しますけれど、一読して損は無いのではないかな、と筆者は思いました。
あ、でもグロテスク耐性の無い方は、心に余裕のある時が良いかなと思います。ご注意下さい。
そんな感じで。