ルー=ガルー 忌避すべき狼/京極夏彦 著

 積ん読本を消化したいと思いつつ、それが続き物で前作が十年近く前だったりすると、さてどうしたものか迷ってしまいますね。概要は覚えているのですが、細かな点は丸っきり忘却の彼方という。読書に関する随想というものは、ですから日録と同じく備忘のためとも言えましょう。それは知識になるのです。
 そんなわけで、二〇一一年に刊行された『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス』を消化すべく、記憶を掘り返すために再読しました。

 折角なので主要人物の紹介も含めて。

  • 牧野 葉月まきの はづき
    主人公その一。県会議員を養父に持つA地区在住の少女。物語の語り手故か、それ程印象的な処は無し。
  • 神埜 歩未こうの あゆみ
    A地区在住、住居の屋上に建てた小屋で一人暮らしをする少女。常に他人と距離を置き、いつでも冷静。達観した思考と行動原理を持つ。
  • 都築 美緒つづき みお
    旧歓楽街とも呼ばれるC地区在住の天才少女。特に情報や機械などの工学系に強い印象で、住処も大量のケーブル類や電子機器類に囲まれている。クラッキングもお手の物。未登録住民のなかで育ち、麗猫とは旧友。
  • 麗猫レイミャオ
    猫。C地区の未登録住民で、拳法を使う中国系の少女。美緒とは旧友だが、立場の違いから六歳の春頃に袂を分かつ。
  • 作倉 雛子さくら ひなこ
    お葬式娘。神秘主義に詳しい。占いとかする。
  • 矢部 祐子やべ ゆうこ
    B地区在住の全体的にピンク色(変な意味ではない)な少女。形状認識異常を持つ。
  • 不破 静枝ふわ しずえ
    主人公その二。児童カウンセラーで葉月達の担当。潔癖症。発言は理路整然としているが少々棘があるような感じで、かなり堅物な印象。
  • 橡 兜次くぬぎ とうじ
    不惑も半ばの巡査部長。連続殺人事件の捜査をしていたが、事件に疑問を抱いている。不潔愛好症。何というか色々とおっさん。
  • 石田 理一郎いしだ りいちろう
    県警刑事部R捜査課強行犯担当管理官で、連続殺人事件を担当する。SVC(旧鈴木食品化学)創業者、鈴木敬太郎の曾孫で現会長の息子。すっごいエリート。
  • 高杉 章治たかすぎ しょうじ
    R捜査課課長待遇・警部。兜次の後輩。
  • 鈴木 敬太郎すずき けいたろう
    鈴木食品化学創業者。国際希少動物保護基金名誉理事および保護海域生態系回復プロジェクト発起人。一部から熱狂的に崇拝されている。

 物語の舞台は近未来の世界。といっても『ド○えもん』みたいな明るい感じの世界でなく『火の○ 未来編』みたいな、そこかしこに闇が垣間見える薄暗い世界な印象。一九九八年にスタートしたプロジェクト「F・F・N(フューチャー・フロム・ナウ)」で、近未来(二〇三〇~二〇五三年頃)世界の設定を読者から応募し、それを基に先生が書き上げた作品なのだそうです。中々面白い試みですね。ただ、割と夢が無いというか、過剰なまでに現実的な世界観なのが少しばかり寂しい気もしますが。まあ作風や内容にも依りますのでこれはそういうものと割り切るべきなのでしょう。
 そうした世界で起きる、十四五歳の少女を狙った連続殺人事件。葉月と歩未、美緒達は祐子の落としたネオセラミック製のピンクのピアスを拾うことで、静枝と兜次は捜査協力の名目のもとセンター管理の未成年者データを警察に提供することで、それぞれ殺人事件に関与していきます。収束しない殺人事件、決め手に欠ける犯人像、ミスリードを呼ぶ共通項。やがて追うものは追われるものになり、果てに……というお話。犯人はヤス(ぉ

 先生の他作品を読んだ事のある方はご存知かと思いますが、いつもの妖怪談義は本作では殆どありません。そうしたものを好まれる方には少し、いえ大分物足りない気持ちになるのではないかと思います。唯一、雛子の語る占いについての考証が神秘テイストで素敵です。それ以外は何と申しますか、もう本当に近未来SF的なミステリ。物語の随所に潜む雰囲気も、オカルティックではなくミステリアス。裏読みなどをすればまあ、妖怪的なところは無くも無いんですが、純粋に先生の書く「ミステリ小説」という位置付けで楽しんだ方が良いのかも知れません。って、いつもの先生の作品も「ミステリ小説」なんですけれどもね。ここでは妖怪的なものを含まない、広義なミステリ小説という事で。
 しかしやはり先生の作品ですね。現実的な世界における物語の、随所にはきっと幻想がちりばめられていて、それが現実に生きるキャラクタの感覚を通して読者を引き付けます。その場その時の状況と、常識と、五感と感情との説明が実に微妙で、読み易く理解し易い。そうしてそれらの要素が無駄の無い伏線として、物語の収斂に至るために生かされています。こういうのがミステリ小説なんだなぁ、と感心する事しきり。どうやったらこんな構成を組み立てられるんでしょうね。こういうの書いてみたいなぁ。

 全くどうでも良いですが、美緒がにとりに、雛子が雛に、麗猫が美鈴に思えてなりません。これだから東方厨は……。
 あと美緒、どう考えてもやり過ぎな。流石にこの子だけはお咎め無しじゃ駄目だと思う。

 そんな感じで。